A-Z House
Year: 2025
Type: interactive
Overview
A–Z Houseは、メンバーの曽祖父が1930年代後半に構え、その後祖父、父、そして現在へと受け継がれてきた実在の一軒家を題材としたウェブベースのインタラクティブ作品である。
この家は約90年にわたり、複数の世代が暮らし続けてきた。家具や日用品、家族写真、手紙、建物の記録など、家の中には長い時間の中で蓄積された無数の痕跡が残されている。あるきっかけから、この家を引き継ぐことになったメンバーは、それまで断片的にしか知らなかった家族や家の歴史と向き合うことになった。本プロジェクトは、それらの記録を保存することではなく、家に残された痕跡を手がかりに、失われつつある記憶を再び体験し、辿り直すことはできるのかという問いから始まった。
私たちは、家に残された家族写真や建物の写真、文書などの記録を辿りながらその来歴を調査し、家族へのインタビューを通じて当時の出来事や記憶を収集した。そして家の中に存在するAからZの文字で始まる家具や日用品を、家の歴史にまつわる26個の象徴的なオブジェクトとして整理し、それぞれに紐づくエピソードを再構成した。
A–Z Houseは、単なる保存や記録を目的としたアーカイブではない。集めた断片を私たちなりの視点で再編集し、インタラクティブなウェブ体験として「Unarchive(再構成)」する試みである。訪問者はデジタル上に再構築された家の中を歩き回り、AからZのオブジェクトに触れながら、この家が長い間紡いできた記憶を辿っていく構成になっている。
作品は、こちらのURLから体験できる (PCのみ)。




Approach
3人のメンバーは実際に家の隅々までリサーチを行い、家具や生活用品、写真、記録を調査・撮影した。しかし私たちの関心は、それらを単にデータとして保存することではなかった。重要だったのは、そこからどのような体験を立ち上げることができるかという点である。調査から抽出したオブジェクトはA–Zのアルファベットに対応づけられ、それぞれに写真・文章・音声などの断片的な記録を紐づけている。



また、本プロジェクトのためにオリジナルのピクセルフォントを制作し、作品の字幕等に採用した。家に長年置かれていた猫のドアストッパーの曲線的な造形をモチーフに、ピクセルの制約の中で柔らかな丸みを感じさせる字形を設計している。ひらがな・カタカナ・アルファベット・基本ラテン文字・数字・記号を独自にデザインし、漢字部分は既存のピクセルフォント※とマッチするように作られている。やや平体気味のプロポーションを採用することで、「記憶の圧縮」と「情報の圧縮」という本プロジェクトのテーマを視覚的に反映している。ちなみに、そのフォントの基本ラテン文字・数字・記号のみを含んだSlantedバージョンを本サイトの見出しとして用いており、また、猫のオブジェは本サイト右下のページスクロールに連動するアイコンとして使用している。
※漢字部分には k12x8 を使用させていただいている。


家全体および各部屋、家具の3Dモデルは主にAIを利用して生成し、Blender上で整理・調整を行った。これらのモデルはThree.jsとReactで開発した独自ツール『Web Pixelizer』へ読み込み、さまざまなピクセルサイズ、カラーパレット、ディザリング表現をリアルタイムに試行しながら、記憶を表現するための視覚的なプロトタイピング環境として機能した。そこで得られた知見をもとに、最終的な体験はUnity上で構築し、完成した作品はウェブブラウザ上で体験できる形式として公開している。(Web Pixelizerの詳細はこちら)



Experiments
当初は、実際の家を可能な限り忠実に再現することを目指していた。しかし制作を進める中で、現実の寸法をそのまま適用すると、空間が必ずしも探索しやすいわけではないことがわかった。実際の住宅スケールでは廊下が狭く、視界も限定されるため、オブジェクトの発見が難しくなる。これは現実の建築としては正しい一方で、記憶を辿る体験としては適切ではなかった。そこで最終的には、実際の間取りを基礎としながらも、廊下や部屋の寸法を拡張し、視点や画角を調整することで、探索体験を優先した空間設計へと変更した。
また、低解像度化された家の中で重要な記憶に関わるオブジェクトを発見しやすくするため、黄色く発光する演出を導入した。さらに、その演出が自然に受け入れられるよう、導入部には「記憶を辿る」という物語的な設定を組み込み、訪問者が空間を探索する理由を与えている。一方で、この作品は一般的なゲームではないので、目的達成による爽快感や競争、報酬を与えることは目指していない。私たちが設計したかったのは、失われた記憶の断片を拾い集めながら、家そのものを少しずつ理解していく体験である。訪問者は家の中に散らばるオブジェクトを発見し、それらを「Unarchive (展開)」していく。オブジェクトに紐づくストーリーは家族への取材内容をベースに、断片的な記憶が少しずつ立ち上がるような語り口へと編集している。これは、私たち自身が調査を進める中で経験した感覚に由来している。
古い写真を見つけること、知らなかった出来事を知ること、家具の由来を辿ること。その体験は完成された歴史を学ぶというよりも、失われていた記憶を少しずつ取り戻していく感覚に近かった。A–Z Houseは、その調査の過程で私たちが経験した記憶の発見と再構成のプロセスそのものを、訪問者が追体験できるよう設計している。

Findings
制作を通じて私たちは、記憶は必ずしも高解像度な記録によって呼び起こされるわけではないことが分かった。大量の写真や正確な記録を並べることが、そのまま豊かな想起につながるとは限らない。むしろ曖昧な断片や欠落した情報の方が、人は積極的にその空白を補完しようとする。不完全さこそが見る人自身の経験や想像力を引き出し、人は自ら不足した部分を補いながら意味を構築していく。A–Z Houseで採用した低解像度表現には、そのような意図がある。
このことは、制作過程そのものにも表れていた。私たちは家を調査しながら、写真や物品から断片的な情報を集め、それらを結びつけることで少しずつ家の歴史を理解していった。その体験は、完成された記録を読むことではなく、失われた記憶を発掘し再構成していく行為に近かった。
A–Z Houseは、そのような記憶の生成プロセスそのものを可視化する試みである。家は単なる記憶の保管庫ではない。新たな解釈や想起が繰り返し生まれる場である。本作における「Unarchive(アンアーカイブ)」とは、固定された保存物として捉えるのではなく、絶えず再解釈され、再構成され続ける営みとして捉え直すことである。
これだけ書いておいて、実はこの作品はまだ完成していない。実物の家の空間に再構成したビジュアルや作品を配置してドキュメンテーションしておきたいと思っている。(T.Y.)






Credits
企画・制作: Horikawa Junichiro, Sonoka Sagara, Taro Yumiba
Published: 2026-01-18, Last updated: 2026-06-29

